療養病床で働くという選択肢について

転職活動へ向けて!知ってほしいノウハウ

看護師は、国家資格という強み・看護師不足という現状から、様々な環境で働くことができます。

そのため、おおむね働きたい職場を自分で決めることが可能であると思います。

しかし、いざ転職をしようと考えていても、具体的に働きたい環境のイメージができていなければ、どのような職場で働けばよいのか迷いも生じるのではないでしょうか。

自分に合った環境で働きたいと考えるのはもちろん、当たり前のことです。

今回は、これからの転職活動を行う上でイメージがつきやすいよう、様々な職場の中から「療養病床」で働くことについて焦点を置いて解説していきます。

具体的には…

療養病棟・療養病床(以下療養病棟)とはどのような場所なのか・働く上でのメリット、デメリット・仕事内容と具体的な日勤のスケジュールなどについてお伝えしたいと思います。

療養病棟を転職先として検討されている方や、まだどこで働こうか考えられていない等、様々な方にとって、少しでも参考になればと思いますので、ぜひご一読ください。

療養病棟ってどんな病棟?

療養病棟の定義

「病院・診療所の病床のうち、主として長期療養を必要とする患者を入院させるもの」

出典:Microsoft PowerPoint – ③【資料2-1】医療療養病床(20対1・25対1)と介護療養病床との比較 (mhlw.go.jp)

つまり、皆さんがご想像している通り、長期入院し療養生活を送ることがメインとなっている病棟ということになります。

現在、日本で療養病棟を有する病院は3458施設あります。


この施設数については、2002年から大きな変化がありません。

日本では高齢化社会が進んでおり、今後はどんどん進行を辿ります。医療・介護の必要性はさらに増加してくることから、療養病棟自体の需要については持続することが考えられます。

平均在院日数は?

平均在院日数については、他の病棟と比較すると長期間です。

病床別平均在院日数について、令和4年の厚生労働省の情報によると、一般病床16.2日に対して、療養病床は126.5日でした。

出典:11gaikyou04.pdf (mhlw.go.jp)


やはり、入院した患者さんは定義の通り、長期間入院していることがわかります。

どんな入院患者さんが多い?

療養病棟で多い病態は?

脳血管疾患35%・認知症23.6%・心疾患22.3%
高血圧症23.1%・廃用症候群17.2%

であることが、調査の結果明らかとなっています。

次に、入院している患者さんの年齢の割合です

療養病棟における患者さんの年齢の割合

40歳未満:0.7%

40~64歳:8.0%

65~69歳:4.5%

70~74歳:7.4%

75~79歳:14.3%

80~84歳:20.5%

85~89歳:19.5%

90~94歳:16.9%

95歳以上:6.8%

(出典)平成25年度老人保健事業推進費等補助金『医療ニーズを有する高齢者の実態に関する横断的な調査研究事業報告書(平成26年(2014年)3月)』(公益社団法人全日本病院協会)

これらのことから、患者層は70代後半であり、疾患は脳血管疾患が最も多いことがわかります。

ADLが自立しており、活動的に過ごせる患者さんが多く入院している療養病棟のケースはあまり無いと思われます。

また、認知機能が低下している患者さんも多く入院しています。

今が何時かわからない・人の認識ができない・どこにいるのかわからないなど、見当識障害から整合性がなく、会話のキャッチボールが難しい患者さんも入院していることが考えられます。

そのため、ただ理解できないというだけではなく、摂食行動・排泄行動自体の認識が困難となっている患者さんもいます。

例えADLが自立していたとしても、食事介助・陰部洗浄が必要な場合もあるでしょう。

これらのことから、入院患者さんに1人1人に対する介護度は全体的に高いことがわかりますし、認知症患者さんに対するコミュニケーション能力も問われます。

介護は多いですが、先ほどもお伝えした通り平均在院日数が長いことから、一般病床に比べると一人一人の患者さんと長いお付き合いをすることができます。

継続的に患者さんに看護を提供できることは大きなメリットです。

1日に受け持つ患者さんの人数は?


病床数については、一般的には50床程度が最も多い傾向にあります。

看護師の配置基準については、20:1もしくは25:1とされています。

このことから、入院している患者さんの人数によりますが、一般的には20人以上の患者さんを、看護師一人が受け持つ傾向があります。

どんな病棟なのかについてのまとめ

◎療養病棟では長期入院患者が多くを占める(平均在院日数は126.5日)

◎患者さんは70代後半以降であり、脳血管疾患が35%と最も多い

◎看護師の配置は20:1もしくは25:1であり、受け持つ患者さんは一般病床より明らかに多い

療養病棟で働くメリット

看護業務の内容が比較的安定している

一般病棟においては検査・手術・処置・急変など、時間に追われる日々が続くと思いますが、療養病棟においては患者さんが手術をするということはほとんどありません。

もし手術を行うことがあっても他の病棟へ転棟し、転棟先で手術を行った後に療養病棟へ帰ってくる、というパターンが多いです。

そのため、療養病棟という側面から「療養」をメインとしているため、ある程度決められている処置を毎日実践していくこととなります。

基本的に病状の観察以外では、体位変換介助・吸引・経管栄養・食事介助・点滴・入浴介助・陰部洗浄などのケアが多いです。

もちろん、長期間入院する患者さんであるため、人工呼吸器を使用している患者さんが入院していることもあります。

そのため、もちろん学習も必要だと思います。

呼吸器管理に対する知識があまりない方であれば事前に学んでいたり、働きながら少しずつ覚えていく必要があります。

看護師としての観察力が身に付き、細かな配慮ができる

寝たきりであり、尚且つ会話の困難な患者さんは、当たり前ですがナースコールを押せません。

そのため体のどこかが辛かったとしても、誰かに助けを求めることはできないため、客観的な観察力が必要とされます。

最初は難しいかもしれませんが、長い間患者さんと関わっていくことから、患者さんそれぞれの苦痛の有無・細かな変化に少しずつ気付けるようになります。

例えば、体位変換介助一つに関しても、その人にとっての細かな苦痛のサインがわかるようになり「この姿勢は好まないんだ」と理解できることで、本人の好みの体位を工夫したり、細やかな配慮が行えます。

患者さんを診る目が少しずつ鍛えられることにより、個別性に合わせた看護を計画し、提供できる能力が身に付くことは大きなメリットです。

基礎看護技術を磨くことができる

療養病棟では、関節が拘縮している患者さんも多く入院しています。

また、認知機能の低下によって何かを介助しようとすると「やめてってー!」

と抵抗が強くなる患者さんもいます。

先程もお伝えしましたが、療養病棟はその性質上、多くの介助を必要とする患者さんが入院していることから、ほとんどの患者さんはオムツを使用しています。

介護職者も在籍していますので、一人でケアを行うわけではなく、連携しながら時間ごとに体位変換介助・オムツ交換を実施します。

最低でも40人程度の患者さんを全員でまわることから、陰部洗浄・オムツ交換に関しては1日に何度も実施しますので、気付けば流れるように陰部洗浄を行えるプロになります。

次に、採血や末梢静脈ルート確保の技術も向上します。

高齢者であるという特徴以外にも、るい痩が進んでいたり、関節が拘縮していると正中からの採血ができない方もいます。

また浮腫のある患者さんでは血管を目視することも困難です。

このような患者さんに採血・ルートを確保することは、血管が細いだけではなく漏れやすい状況でもあることから、技術力が必要です。

時にはとても細い手背・足背などの血管に留置することもありますので、これを繰り返すというだけで血管のプロになれます!

患者さんと長期間に渡って関り、慢性期から終末期に至るまで看護師としての役割を果たせる

療養病棟へ入院された患者さんの退院先

自宅退院:23.0%

一般病床:14.4%

死亡:41.3%

その他 21.3%

このことから、4割以上の患者さんが療養病棟へ入院中に死亡退院をされている現状があります。

自宅退院が少ない要因には、介護負担も大きく関わっています。

家族も生活者の一人であり、生活をするためには仕事をしなければいけません。

可能な限りの介護サービス・訪問看護・訪問診療などを利用していたとしても、最も傍で見守ることとなる家族にとって自宅でみるということは、介護力以外にも、仕事中や夜間眠る時にも「大丈夫だろうか」と不安に思う方がいるのは当然です。

また、自宅で「もしも」のことがあった場合にどうして良いかわからない・自分に適切な対応ができるのか、といった緊張感を感じながら自宅で生活を送る負担も感じることから、最期まで療養病棟で過ごす方はたくさんいます。

さらに、家族だけではなく患者さんの希望で入院するというケースもあります。

例えば、「最期は家族に迷惑を掛けたくない」「家族からの介護を受けたくない」と思い自宅での生活を希望されない方がいます。

家族との関係性・距離感をある程度保ちながら、最期まで自分らしく過ごしたいという気持ちがある患者さんもいるでしょう。

そのため「最期は自宅で」と考える患者さん・家族もいれば、「病院にお任せしたい」という方もいるため、それぞれの家庭による考え方があり、その形は多様性なのだと思います。

療養病棟で最期を迎える患者さんも多く、看護師としては長期間患者さんをケアしながら、看取りの場面まで携わることとなります。

点滴などの薬剤は使用することになると思いますが、治療をメインとしていないことから、自然な形で経過を看ていくことが多いです。

患者さんと長期間関わっていく中で、その人をより知っていくことができ、その人らしい生活を支えていくことができます。

多職種で協働ができるようになる

患者さんと長期間関わる上で、様々な職種の方との連携は必要不可欠です。

必要な多職種連携
  • ОT(作業療法士)・PT(理学療法士)と現在の状況を維持・または向上するリハビリ内容についての相談
  • 嚥下機能が低下してきた患者さんにST(言語聴覚士)が評価をしてもらいながら、本人が食事を可能な限り楽しめる時間の提供
  • 嚥下状況、食の好みに合わせて、管理栄養士と食事形態や内容についての相談
  • 薬剤師と患者さんの状態に合わせた薬剤の使用方法、投与経路などの相談
  • 入院前から情報を多く持っているMSW・ケアマネージャーなどと患者さん・家族の思いについて情報共有を行う。その上で意思疎通が困難な患者さんの思いに沿った関わりを提供する

など、多職種と看護師が連携しながら、その時々の状況に合わせて患者さんを支えていきます。

看護師がそれぞれの職種の橋渡し役としての役割を果たしながら患者さんと関われることによって、患者さんだけではなく、家族にとっても、支えてもらえることによる安心感を提供できるでしょう。

メリットに関するまとめ

◎慢性期から終末期にかけて、必要な看護だけでなく、多職種連携についても強くなれる

◎言語的コミュニケーションが困難な患者さんとの関わりで、客観的アセスメント能力に強くなれる

◎長期に渡る患者さんとの関りによって、看護師としてのやりがいが得られる

◎基本的な看護技術の向上・慢性期から終末期に移行していく特徴的な病状の変化に対する知識が身に付く

0000139018.pdf 療養病床に関する基礎資料

療養病棟で働くデメリット

現在勤める職場からやや給料が減額となる可能性

療養病棟に関する特別な手当がない

例えば、救急救命センター・手術室看護師などではオンコール手当・精神科病棟であれば危険手当など、看護師は配属先によって様々な手当を受けることができます。

しかし、療養病棟においてはその対象ではありません。

もちろん、病棟内で認定看護師として活動するのであれば、認定看護師としての手当・管理職としてであれば管理職手当を受けられることが考えられます。

療養病棟では特別な手当を受けられないことから、現在の職場で危険手当などを受けられているのであれば、その分の給料は引かれてしまいます。

残業時間が他と比べて少なくなる。その要因は?

また、残業時間についても基本的には少なくなる可能性が考えられます。

それは他の分野と比較すると、緊急手術・臨時入院などの突発的な対応に追われることが少ないためです。

入院される患者さんもいますが、基本的には事前から予定されてい予定入院患者さんをその日一日で担当することになります。

また、毎日のように入院患者さんが何名も来るケースはほとんどありません。

さらには療養を目的として入院されることから、特別な処置は必要とされないことが多い傾向にあります。

内容としては…

患者さんが入院した時の対応

入院に係る書類や荷物整理

看護師としての記録

必要であれば点滴、採血、レントゲンなどの検査、内服整理

褥瘡があれば処置方法検討、実施

抑制の必要性や環境に関する検討

など、基本的な入院整理ができれば問題が無いことから、入院患者さんを一人受け持つことに関して長時間の残業時間が発生することは少ないかもしれません。

これらのことから、療養病棟に移動することが直接給料を上げるという結果に繋がらない可能性があります。

しかし、病院ごとによって基本給・夜勤手当などの額は変化するため、現在勤めている職場と照らし合わせることで、上手くいけば結果的に給料が上がることは考えられるでしょう。

最新の医療に触れる機会がほとんどなく、自ら求めなければ看護師としての知識が停滞する

先程メリットの方でお伝えしましたが、基本的な看護技術については療養病棟で磨くことができます。

その一方で、処置内容としてあまり変わり映えの無い仕事内容が続いていくことから、急性期のように新たな医療に触れる機会は少なくなります。

医療は常に進歩を辿っていることから、療養病棟で仕事をしているだけで最新の技術や知識が身に付くという機会は減ってしまいます。

そのため、興味のある方であれば定期的に勉強をする姿勢を忘れず、自己研鑽が必要です。

デメリットに関するまとめ

◎特定の場所で得られる手当は療養病棟にはない・残業時間の減少から給与が減額となる可能性

◎最新の医療・看護に関する知識が向上しない可能性がある

療養病棟の一日のスケジュールは?

療養病棟での配置基準は20:1もしくは25:1です。

そのため、看護師一人が20~25人の患者さんをを受け持ちます。

私が経験していた療養病棟における、日勤看護師の一日のスケジュールは以下の通りでした。

日勤看護師のタイムスケジュール
  • 8:30~9:00
    夜勤看護師からの申し送り

  • 9:00~10:00
    看護師ラウンド(バイタルサイン測定・点滴開始)

  • 10:00~11:00
    (介護職者と共に)体位変換介助、陰部洗浄、オムツ交換。看護記録の記載
  • 11:00~12:00
    経管栄養の開始、看護記録の記載
  • 12:00~12:30
    食事セッティング、食事介助、経管栄養終了
  • 12:30~13:30
    昼休憩
  • 13:30~14:30
    入浴患者への処置(更衣介助・ポート抜針や穿刺処置・皮膚処置)
  • 15:00~15:45
    看護師ラウンド(必要な患者さんに対するバイタルサイン測定)
  • 15:45~16:30
    看護記録の記載
  • 16:30~17:00
    経管栄養の開始・夜勤看護師へ申し送り
  • 17:00
    帰宅

以上が日勤で、患者さんを受け持つ場合のスケジュールです。

また、療養病棟においては「処置係」として看護師が日中1名はついていることが多いと思います。

療養病棟といっても処置の数は意外とありますので、処置のみを行う看護師がいることで日勤の看護師は助けられています。

処置係の主な業務内容

・朝の申し送り後からの臨時採血・点滴指示を受けて実施する

・検査のある患者さんの移送、透析患者の移送

・入浴介助を介護職者と共に行う
※午後から1日に6名程度は入浴をします。スピーディーに動くので、汗だくになること必至です。

・便処置
※便秘傾向の患者さんは多く、曜日ごとに便処置をする日が定められています。
(10名程度の浣腸・摘便をすることもしばしば…)

・日勤看護師がまわりきれていない時の手伝い
※細かい所でいえば痰の吸引、発熱時の頓用薬剤対応、夕方の点滴などに当たります

処置係の場合は体力的に疲れますが、記録類をする必要がないことがメリットですね。

療養病棟に向いている看護師とは?

療養病棟に向いている看護師一覧

・言語的コミュニケーションの図れない患者が多くても、看護師として客観的アセスメント能力を鍛えて患者さんにケアを提供したい

・長期間にわたって関わりながら、最期まで患者さんを支えたい

・あまり残業をせずに仕事を終わらせたい

・給与面を最優先事項として働くことを考えていない

・介護職者の方と良好なコミュニケーション、連携を図れると思う

・基礎看護技術を磨きたい

・ケア業務が多いことにあまり抵抗を感じない(陰部洗浄・便処置・吸引・経管栄養・入浴介助・洗髪など)

今回は療養病棟で働くことについてお伝えしました。

可能な限り詳細をお伝えしましたので、長文だったと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。

療養病棟を選択しとして考えている方の参考になれば幸いです。

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(国立病院・特定機能病院・療養型病院・一般病院)(緩和ケア科・循環器科・療養病棟など)
〇緩和ケア認定看護師(B課程)
〇転職を繰り返しながら、「やりがい」を見出して看護師を継続している経験を発信

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